三分


2000年にエフエム福岡「土曜ラジオ館」で脚本の執筆を開始して以降、

2005年、同局「ラジオ1人芝居 最後の初年兵」ギャラクシー賞ラジオ部門優秀賞

2007年「月のしらべと陽のひびき」第3回日本文化大賞ラジオ部門準グランプリ

2009年「聞こえない声~有罪と無罪~」ギャラクシー賞ラジオ部門大賞、文化芸術祭ラジオ部門優秀賞、日本民間放送連盟賞ラジオ教養部門優秀賞

(ライトスタッフギルド立ち上げ後、所属作家の監修として)

2012年「孫文と九州人~絆よ悠久なれ~」ギャラクシー賞ラジオ部門奨励賞

2014年「鉄の河童」民間放送連盟賞ラジオエンターテイメント番組優秀賞、文化庁芸術祭ラジオ部門大賞を受賞した。




現在は2016年から続く、RKB毎日放送の連続ラジオドラマ「家族びより~シアワセの高取家」で監修を務めている。

密着から一年となる今回「シアワセの高取家」の収録現場に同行した。 




新型コロナウィルス感染症対策として、これまでとは異なる収録方法がとられるようになった。

収録含め、声優を務めるアナウンサー陣とは別室での作業になる。

直接顔が見えなくても、声から表情はわかるので問題はないのだと阿久根氏は話した。



同ラジオドラマは月曜から金曜日までの放送で各日一話完結、全編博多弁での放送。

脚本をライトスタッフギルドの作家たちが行い、阿久根氏が最終的な確認を行う。

このラジオドラマの魅力であり特徴は、先にも述べたがRKBのアナウンサーたちが声優を務めていることにもある。



この日は、収録・仮読みの前に、声優を務めるアナウンサーと個別で本読みをする姿があった。

限られた時間の中で二週間分の本読みを進めていた。時には博多弁の指導も行われる。



一本三分のドラマ。



仮読みが三分、セリフやシーンの意図を説明するためのダメ出しが三分、収録三分。

一週間五話、二週間分の収録。



「皆さん、現場の仕事を終えて帰れる状況になってから収録するんですよね。

早く帰してあげたいじゃないですか。なので、どんどんどんどんOKを出していきますよね。二時間で二週分を撮るというのが目指すところです。

なので、OKラインをどこにするのかちゃんと設定しています。出来るまでやる。みたいなことは・・。役者さんとは違うので…。」



そう話す阿久根氏に、

「苦労かけているんです。アナウンサーでやりたいって言ったばっかりに」

と、古賀和子プロデューサーが笑顔で教えてくれた。



とは言え、いざ収録が始まるとプロのアナウンサー陣の技術はものすごかった。テンポ良くラリーされる言葉は圧巻で、阿久根氏を追いながらもアナウンサー陣の声に心を奪われていた。

阿久根氏も、真剣かつ楽しそうな眼差しで見守っている。




「作家が三分で物語をやっつけなきゃいけない良質な現場だと思っています。

アナウンサーさんたちも、多分ですけど、何かを得ようとして一緒に作っている現場じゃないでしょうかね。」

三分のダメ出し

そこに、印象的なやり取りがあった。それも、一度ではなく。

仮読みのあとで、構成・キュー出しのスタッフの松村さんから改善案が提案されたときに、阿久根氏はNOを言うことがなかったのだ。

「そうですね、それでいきましょう。」

台本に変更した言葉が書き込まれていく。




唯一阿久根氏が提案に対して意図の説明として意見を返したのは、〝人のことコレアレ言うな〟という一文でのことだった。

「聞き手は〝アレコレ〟を言い間違えたと誤解してしまうかもしれないので〝アレコレ〟に戻すのはどうでしょう。」構成の松村さんから提案があった。



その表現の裏には、そこに至るまでに〝コレ・アレ〟の順で書かれた一文があり、

わかる人にわかったらおもしろいぞ という阿久根氏のしかけのような意図があり、それを伝えた。


次の瞬間、

「それでいきましょう。」の阿久根氏の声。

えー!!いいの!!

とてもいい意味で拍子抜けした。



阿久根氏は終始柔軟で、ねらいがあれば一応その説明はするが、押し通そうとはしない。

双方がリスナーにとってのベストを考えて、一瞬のうちに判断している。




「彼女松村さんはギルドのメンバーなんですよね。

演出がもっともっと出来るようになると期待していますし、スキルアップとかしていってくれるのが嬉しいです。

どうしても譲れない時があればこちらの意図を伝えますけど、そうじゃなかったらね。OKを出して進められるといいですよね。」




あ、そうか。

はじめに言っていたことと何もぶれていない。

OKラインも定めている。



自分を出そうとするよりも若い芽を育て、調和で進めていく姿はさすがだなぁと感じた。チームでつくり出している。

「早く演出しなきゃいけないっていうのが難しいんですよね。」




柔軟な阿久根氏がどうしても譲れない表現とはどのようなものなのだろう…。

その瞬間に立ち会えるかどうかはわからないが、どのような表現の時で、そこにはどのような思いがあるのか。

知りたくなった。



縛りなく自由に演出できるときの阿久根氏は、とにかく楽しそうで現場には笑い声が飛び交う。



言葉から、頭の中で想像が繰り広げられ賑やかであっという間の三分だった。

それぞれの三分を経て一つの作品が出来上がる。




「アナウンサーさんたちの仕事は、正しく伝えることでしょうけど、局はそれだけを求めているわけではありませんもんね。

視聴者やリスナーが、その局で見たり聴いたりしたいと感じさせる表現が求められていると思います。

そういうの背負わされている方々ですよね。

なので、役を演じることによって、多様な表現が身についたりしてくれるといいな、自分の色合いを今よりもっと濃くしてもらえるといいなあと思うんです。

名前も覚えられたり、その人の表現を好きになってくれたりすると、仕事現場は増えますもんね。

なので、表現で提案があれば僕は受け入れますし、アイデアもどんどん出してくれればいいと思っています。

そうすれば、どの現場でも破綻しない選択が出来るようになるし、自分の表現を創造できると考えています。」



福岡にいる間にアナウンサー陣の皆さんの普段の仕事での声を、番組で観て、それから関東に帰ろう。わたし自身も自然とそう感じた。



リスナーにそう思わせられるのもまた、自分から人が育つことがうれしいと思える阿久根氏だからこその演出の賜物なのだろう。




相手に花を持たせる人

今回はラジオドラマ収録の現場から、阿久根氏のそんな姿を受け取った。




RKB毎日放送 連続ラジオドラマ ~シアワセの高取家~

The Life of AKUNE TOMOAKI

脚本家・演出家・映画監督など、マルチな才能で活躍する阿久根知昭氏に密着。 https://www.facebook.com/tomoaki.akune

0コメント

  • 1000 / 1000