光の所在


『「大上下知有之」はなかなか難しい

意識されず、ただぼんやりと上にいる存在

何をやってもその人の力だと認識されないけれど、

その組織は最高の仕事をしている

組織の中でそんな存在になろうとしてもう何年・・・

グチを言わず過失を咎めず、やった仕事の成果は自分よりも下にいる者の手柄にする。

これってすごく難しい

(中略)

そんなこんなで

個人では弱い作家のためにユニオンを作ったんですけれどもいざ作ってみると、すごく難しい

「自分のやったことはちゃんと自分の手柄にして」と言わなければならない。

そこでは「大上下知有之」は難しい』


   ―――2019.3.23 Facebookより


「自分を大きく見せるためのエネルギーは使いたくありませんね。」


阿久根氏が代表を務める作家集団「ライトスタッフギルド」

元は作家の権利を守りたいという思いから立ち上げた。


阿久根氏からは〝自分を前面に出そう。〟といったものを感じない。

実際、〝ギルドのためになるならやります。〟仕事を引き受ける時もそんなスタンスなのだという。



自分の作品をどんどん出していくという欲がないのだ。

自分の作品へのエネルギーだけでなく、人を育てることに力を入れたい。

自分から学んだ人が花咲いていくことがうれしい。


そんなことを感じているのだという。



〝傷つく組織〟

阿久根氏はギルドをそう呼んだ。


傷つく組織。どのような思いからギルドをそう呼ぶのか。




阿久根氏から発せられたのは、ダイヤモンドの原石というワードだった。

美しい輝きを放つダイヤモンドは、初めから輝いていたわけではない。

原石を磨くことで輝きだす。

ダイヤモンドの原石は、磨かなければ輝きを放つことはない。

同じくらいの硬度のダイヤモンドで磨かれることで輝きを増していくのだと、そう話した。



あなたがダイヤモンドの原石ならば、同じくらいの実力のダイヤモンドと磨きあって、そこでやっと輝きはじめる。

狭い世界にいてほしくないのだという。

そこにいたら傷がつかない。

傷ついて磨かなければ、ダイヤモンドの輝きは放てない。

自分を守ってくれる人たちの中から飛び出して、玉砕してきてほしい。

広い世界に出て行って、苦労する。

その経験があるのかないのかでも全然違う。




こいつには叶わないとか、絶望に落ちてもいい。

四方八方から傷つけられて初めて輝く。

傷ついてきてほしい。

その傷は無駄にはならない。

自分のもとで学ぶ役者たちにも思うし、ギルドの作家たちにもそう感じるのだという。



「自分がやりたいことを見つけるために傷つくことは大事ですよね。他で使える傷はつけていいんじゃないでしょうか。」


君も傷ついておいで。それは、終わりではなく、そこから始まるものもあるから。

そういう阿久根氏の想いがあるのだろう。

傷ついて磨きあって成長してほしい。


だから、ギルドは傷つく組織。



阿久根氏自身、自分の経験や傷を、作品を通して誰かにとっての光に変えてきているのだろうな、そんなことを感じた。

〝傷〟という言葉自体の意味までもポジティブな印象に変えることができる。

傷ついてきたことを、経験を、ダイヤモンド。そう思えるのって、すごいなぁ。

思わず言葉に出してしまった。




「自分が傷ついたことが、誰かにとっての光になるのならそれでいいんですよねぇ。僕は何かの原石とかじゃなく、ビー玉ですけどね。」

少し照れくさそうに続けた。

「ビー玉だって、小さく傷つけばすりガラスになって、鈍く光りますよ。 

僕はそれでいいかな。スターになれないし大きなものにはならなくていい。

ダイヤの中に居たら気づかれなくても、

誰もが体験する光。

鈍い光が落ち着くって言ってくれる人のために光れるんです。」



自分が自分のままでいて受け入れられるほうが、

無理をした自分が受け入れられるよりも、ずっといい。

自分を知って、そこから始める。

自分を大きく見せない。



阿久根氏は自分の人生を生きている。

わたしは親になり、子どもたちに、

傷付かずにいてほしい。そう感じてしまう時もある。

だけど。

傷つかないことよりも、傷ついても、道はまだあることを忘れないでほしいなぁ。そう思える心が生まれてきた。

失敗したり、間違えたり傷ついたり傷つけたり。

生きていたら色々ある。

でも、全部大丈夫。

そうやって生きてきて、輝いている人たちがちゃんといる。



阿久根氏を取材していると、心の中のもやが晴れていく感覚になる。

阿久根氏に向き合う中で、自分自身にも向き合っているのかもしれない。自分の心にある痛みのようなものに向き合うのって途方もなくしんどい。

けれど。

そうすることが、いま子育てでつまずいているわたしには必要なのだと、素直にそう感じる。

自分のつまずきを子供たちに残したくない。

そう思うと、向き合うことができるし、向き合わないととなる。

阿久根氏から受け取る光

阿久根氏は、経験をどのように光に変えてきたのだろう。



そこには、きっとまた、希望がある。

The Life of AKUNE TOMOAKI

脚本家・演出家・映画監督など、マルチな才能で活躍する阿久根知昭氏に密着。 https://www.facebook.com/tomoaki.akune

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